Skypeは音声通話の業界における破壊なのか?

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この記事を読んで思ったことを書いてみる。

通信業界におけるイノベーションについては、クリステンセンの著書の「明日は誰のものか」でも詳しく触れられている。
ざっくり言ってしまうと、「通信という分野において電話は電信業界を『破壊』したが、無線の音声通信(モバイル、携帯)は既存の(固定)電話業界を『破壊』することができなかった」ということを、自信の主張するイノベーションの理論に基づいて解説されている。

一見破壊的と思われるこの無線技術だが、振り返ってみると既存の固定電話の業界の企業に有利な道を進んできたといえる。
彼はその原因を4つあげていて、そのうち2つを政府の介入によるものとしている(ここでいく政府はアメリカ政府)。
その分析については詳細には触れないが、面白いと思ったものをピックアップしてみる。

  1. モバイルの業界各社は「高級な市場」をめざした
  2. 政府の介入により、固定電話業界の企業に対し独立した子会社の設立を課した

ひとつめはクリステンセンの2冊目の著書「イノベーションへの解」でも解説されているが、失敗をたどるパターンであるとされる。
未発達な技術はまずそれで満足してくれるところで足場を固めたあとで、徐々に上位の高級市場をめざすべきであるというのが彼の分析なんだけど、そう考えるとモバイルの業界は顧客の選定を間違ったことになる。
無線の安定性をもとめる顧客(ビジネスで利用する顧客)をターゲットにするには、無線のアンテナの設置などの設備投資でかかるコストを抑えつつ、信頼性も保たなければいけない。
これを満たすために彼らのとったというか取らざるを得なかった行動が固定電話回線へのローミングだった。
これによって既存の固定電話業界はモバイルのユーザーを自分達の顧客として迎え入れる取っ掛かりを得ることになり、モバイル業界は固定電話業界と同じ土俵に引きずりこまれていった。つまり、おなじ顧客を取り合うことになったのだ。
こうなると、力(資本力)のあるところが勝つのが道理。


2つ目は、政府の介入によって強制的に資本を分けざるを得ない形に追い込まれたというもので、これが一番面白い。
破壊のイノベーションにおいて足かせとして働いてしまうのが、資本を独立させずに母体の資本をあてにして事業に取り組むことであるというのはクリステンセンの主張の中でも特に自分の中で共感できる部分。自分の身近なところでこのタイプの失敗の実例をいくつも見ているのでよくわかる。
母体の資本をあてにして新規事業に無茶な投資をするとろくなことが起こらない。
「限られた資本の中でどうするか」という試行錯誤から新しいコスト構造や新しいバリューネットワーク(顧客、市場)が生まれてくるからというのが大筋なんだけど、まあこれはイノベーションに限らずそれまでとは別の取り組みを行うときにはごく当たり前にとるべき行動だよなぁとも思う。


そんなこんなでモバイル技術は既存の固定電話業界にとっては破壊的でなく持続的なイノベーションになってしまった。
破壊を起こすには、既存の固定電話回線に依存しない質の低いクオリティても満足してくれて既存の固定電話のシステムに依存しないで済むような新しい顧客を開拓するべきだったというのがクリステンセンの結論。


さて本題にいくとして、まずSkypeについてごく簡単に言うと、IP網を通じてP2Pで音声をやりとりするVoIP技術。
基本的にSkypeを利用しているユーザー同士で通話するものなんだけど、「SkypeOut」というサービスを利用すれば既存の電話とも通話ができる。
では、Skypeは音声通話において破壊をもたらすんだろうか。
記事を読んでると、Skypeは既存の電話回線にのっかりたがってるようだ(SkypeOutも既存の電話体系とつながることを目的としている)。
これは既存の電話体系に依存することになり、過去の例からみると既存の企業にやられることになる。
Skype自体は独自のプロトコルを採用していて仕様は非公開なんだけど、電話とそうでない音声通話方式をつなぐことがビジネスになるなら既存の企業もSkypeに代わるものを使ってSkypeの顧客を自分達の土俵に取り込む動きをするだろう。

んじゃ、Skypeが音声通話の業界に破壊をもたらすとすればどういう形になるのだろうか。
既存の電話体系に依存しない新しいバリューネットワーク(顧客、市場)を築き上げ既存の電話業界の企業がまねできないコスト構造を作り上げることがまず第一とし(新市場型破壊)、既存の電話体系の要求の厳しくない顧客、「通話品質は上等でなくても無料で好きなだけ通話ができるならそれでいい」という顧客を獲得していくことを第二とする(ローエンド型破壊)。
最終的にはさらに上位の顧客、「通話品質と安定性を重視する要求の厳しい顧客」をターゲットにしていく。
ん〜・・・。


まあ、今後どういう風になっていくにしても、電話体系を利用した無料の音声通話自体はIP電話で実現できるものではある。そうなると焦点はどこで利益を出すかというコスト構造になるだろうから、そこが一番重要になってくるのかな?
P2PでやりとりするSkypeのコスト構造は今は圧倒的だけど(Skype社の従業員は50人ぐらいらしい)、やっぱり電話体系にあわせていくと最終的に電話を破壊するところまではいかないと思う。
既存の企業も子会社をつくって、P2P通話を自分達のネットワークを絡めてより便利にできるようにすれば対抗できるだろうし。


というわけで、Skypeは電話体系に依存しない新しい市場を作っていくべきというのが結論。
どうでしょう?